MacとiPadの「境界線」を溶かすステージマネージャと開発者の創造力

アップルの製品を長く愛用するユーザーから、iPadをMacのように、あるいはMacをiPadのように使いたいという声は絶えず聞こえてくる。今年、アップルが開発者向けカンファレンス「WWDC」で発表した次期OSの最新機能が、いよいよiPadとMacとの間に横たわる壁を壊してくれるかもしれない。

MacとiPadのUIをつなぐ新機能「ステージマネージャ」

2022年のWWDCは長く続いた新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを乗り越えて、初日はオンラインとリアルのハイブリッド形式でにぎやかに開催された。基調講演には世界各国から1000人を超えるデベロッパがクパチーノの本社Apple Parkに集まった。

筆者もリアルイベントに招待されたジャーナリストの一人としてカンファレンスを取材した。数多発表の中で、次のiOSとmacOSに搭載される新しいユーザーフェースとして「ステージマネージャ」が発表された時、待ってましたといわんばかりに多くのデベロッパたちが歓声を上げたことが印象に残った。

散らかったMacのデスクトップを自動で整理してくれる

ステージマネージャはアプリケーションのウィンドウを自動で整列・調整して、ユーザーのマルチタスクによる作業を支援する新しい機能だ。

次期、iPadOS 16とmacOS Ventura(macOS 13)に同じ機能が搭載されることから、ユーザーインターフェースの見た目だけでなく、操作感においてもまた「iPadをMacのように、あるいはMacをiPadのように」使えそうな期待がふくらんでくる。

WWDCのステージでは、順番を先に発表したmacOS Venturaの新機能としてステージマネージャがベールを脱いだ。

Macユーザーであれば、仕事やその他のクリエイティブワークに長くのめり込むうちに、デスクトップに数え切れないほどのアプリケーションとそのウィンドウを散らかしてしまった経験があると思う。

ステージマネージャを起動すると、ユーザーがメインで作業するアクティブウィンドウが中央に大きく表示され、他のウィンドウが最近立ち上げたものから左側に小さく整理されて並ぶ。

それぞれのタスクはウィンドウを選択するとすばやく切り替わる。macOSの場合はMission ControlやSpacesなどマルチタスク管理に便利なその他の機能とステージマネージャを合わせて使うこともできる。

iPadのマルチタスク操作がスムーズになる

続いて、アップルのソフトウェアエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントであるクレイグ・フェデリギ氏が「iPadOS 16のステージマネージャ」をオンライン上のステージで紹介。macOSとユーザーインターフェースのデザインや使い勝手が変わることのない新機能についてデモンストレーションを披露してみせた。

従来のiPadOSから、ひとつのアクティブウィンドウを全画面表示にするか、またはSlide Over、Split Viewといった機能を使って画面を分割表示にして、同時に複数のアプリによるマルチタスキングを行うこともできる。

ステージマネージャの場合は、ウィンドウのサイズも自由に変えられるようになるところが、おそらく多くのiPadユーザーにとって最も画期的で便利に感じられるのではないか。アクティブウィンドウをクリックしてすばやく切り替えたり、ウィンドウをグループ化するといったmacOSに近いユーザーインターフェースのカスタマイズも可能になる。

さらにiPadを外部ディスプレイにケーブルでつなぐと、ステージマネージャによりiPadとディスプレイのそれぞれに最大4つずつのアプリを表示して、広々としたワークスペースで作業に集中できる。

デベロッパのアイデアがステージマネージャを輝かせる

WWDCに注目した多くのデベロッパたちはいま、従来のiPadによるマルチタスク操作の限界を押し広げて、新たな機能やサービスが創造できるステージマネージャーの可能性にときめいているはずだ。アップルが各OSに設ける新しい機能は、言うならばデベロッパたちがそこに新しいアイデアを活かしたアプリやサービスを盛り込むための「器」だからだ。

ステージマネージャ自体はアプリの互換性を気にすることなく使える機能だが、その可能性をフルに活かしたデベロッパによる「人気のアプリ」が秋以降に生まれることを期待したい。

一方、iPadOSのステージマネージャには、「Apple M1チップ」を搭載する機種であることというiPadOS 16の動作環境よりも厳しい条件がいてくる。これを満たせるのは現状、M1チップを搭載したiPad ProとiPad Airに限られる。今秋にiPadOS 16の提供が開始される頃、iPad mini、スタンダードモデルのiPadがM1搭載にアップデートされるのか注目したい。

iPadとMacの境界線を溶かすのは「アップルのエコシステム」

macOSにApp Storeが加わってから、仕事の効率を高められるiPhoneやiPadの人気アプリがMacでも使えるようになった。iCloud上にデータを同期させると、例えばApple Pencilを使ってiPadでラフスケッチを描き、Macでデジタルグラフィックスに仕上げるといったスムーズなワークフローが構築しやすくなる。

アップルはMacとiPad、それぞれが固有のクリエイティビティを発揮できるデバイスであるという考え方を貫いてきた。おそらくは今後も、iPad上にmacOSを走らせたり、MacをApple Pencilによる手書き対応にすることをアップルは良しとしないだろう。ステージマネージャも実際に使ってみないとわからないが、iPadでMacと同じ操作性を100%再現するものにはならないはずだ。

一方でアップルの各デバイスが持つ特徴を活かして、外部デベロッパのクリエイティブな発想を推進力として成長を続ける「アップルのエコシステム」そのものが、従来のパソコンやタブレットの垣根を超えて、多くのユーザーが手放せないツールに化けていくのだろう。筆者も2022年のWWDCの熱気を肌に受けて、そう実感した。

发布日期:
分类:情報

发表评论

您的电子邮箱地址不会被公开。 必填项已用*标注